著者:木村 元彦(きむら・ゆきひこ)
発行:6月24日/出版社:集英社/価格:1,800円(本体価格)/ページ:304P
今西和男の半生から見える、日本サッカーの課題と希望
日本サッカー界におけるゼネラルマネージャー(GM)の先駆けであり、「サンフレッチェ広島の生みの親」とも言われる今西和男。彼はなぜ“日本サッカーの育将”となり得たのか、その理由に迫ったのが本書だ。
著者・木村元彦氏は今西の半生と、森保一(現・広島監督)や小林伸二(現・清水監督)、風間八宏(現・川崎F監督)といった多くの教え子たちとの関係性を紐解くことで、“育将”の一貫した思想とその人間性を描き出す。面白いのは、今西はサッカー選手の育成自体に耽溺していたわけではないという点だ。あくまでも選手以前に人間そのものを育てることに心血を注いできた結果、名選手や名指導者を多く輩出することができた。その逆説的な事実は“サッカーにおける育成とは何なのか?”という根本的な問いを読む者に突き付ける。
そして、本書は単なるノンフィクションという枠には収まらない。『Web Sportiva』での連載企画『育将・今西和男』を加筆する形で構成されている本書のミソは、あとがきにもあるように、その連載から“大幅に”加筆、再構成されているという点だ。この大幅な加筆点を読まなければ、著者が今西に焦点を当てた理由、そうすることによってあぶり出したかったものは見えて来ない。
第3章に収録されている『クラブは地域のために――FC岐阜』。この章こそが主に連載から“大幅に”加筆されている箇所だ。ここでは今西が、岐阜のGM、社長に就任し、やがて解任されるまでの経緯が衝撃的な事実とともに記されている。地域のために生きた今西和男という稀代のサッカーマンが、その地域に翻ろうされ、『100年構想』を掲げているはずのJリーグによって理不尽な形でクラブを追われる姿は、この国でサッカーが“生きていく”難しさを残酷なまでに明示している。Jリーグは誰のためにあるのか――。
今西和男という男の半生、その圧倒的な“強度”をとおして、われわれは日本サッカーが抱える課題と希望、その両面を目撃することになる。
(BLOGOLA編集部)
2016/08/20 12:00