アグエロ、ファルカオ、岡崎……点取り屋の得点パターンを見逃すな!
8月8日に開幕したイングランド・プレミアリーグ。昨季王者チェルシーの“包囲網”や岡崎慎司のレスター移籍など、見どころは多い。そこで今回はJリーグ随一の欧州サッカー通で、大宮アルディージャ所属の播戸竜二にプレミアの魅力を語ってもらった。J2最年長ハットトリックをマークした熱血漢が注目するストライカー、そして今季の優勝予想やいかに……?
聞き手:茂野聡士/写真:宇高尚弘
※8月7日発売号の本紙に掲載されたものです。
■プレースピードの速さに要注目
―播戸さんはオフに現地観戦するなど、Jリーガーきっての欧州サッカー通として知られますが。
「そうですね! 現地で見て強烈に覚えてるのは02年、イナ(稲本潤一/現・札幌)がいた頃のアーセナルですね。当時のアーセナルは黄金期で、アンリ、ベルカンプ、ピレス、ビエイラに、最終ラインはアダムスやアシュリーコールなどがいて、一番輝いてた時期です。ちなみにジェファーズって期待された若手もいたけど、そいつはあんまり伸びへんかった(笑)。その後はモウリーニョが来て勝てるようになったチェルシー、僕がガンバ時代に(08年のクラブW杯で)対戦したマンチェスター・ユナイテッドなどは、ずっと注目し続けてますよ」
―さすが! いきなりスラスラと選手名が出てきましたね。播戸さんが見るプレミアの魅力はどこにありますか?
「何より、体のぶつかり合いの激しさ、互いのゴールに迫る速さやと思います。あとピッチも適度に濡れてるぶん、パスの球足も速いんですよね。プレースピードが上がるから、見ていてめっちゃ楽しいですよね」
■アグエロは速さ・強さ・巧さ全て抜群
―今回のプレミア特集のテーマとして「ストライカー・播戸竜二が見るプレミアの点取り屋論」を語ってもらえればと思います。
「プレミアでストライカーが活躍するのは相当難しいやろな、と思いますね。マッチアップするDFがデカくて速いから、単純なクロスが入ってもなかなか競り勝てへん。例えばジェコや全盛期のドログバくらいの、半端ないフィジカルがないとキツいんちゃうかな。とはいえ、プレミアのDFは全体的に小回りが利かず、細かい動きに弱いところがあると見ているんです」
―俊敏性を最大限に生かすタイプの代表格は誰ですか?
「アグエロですね。彼は173cmしかないけど、速さ・強さ・うまさすべてを持ってる。あれくらいの能力がなきゃ、昨季26ゴールも取って得点王になれへん(笑)。あと今季で言えば、チェルシーに移籍したファルカオにも注目ですね」
―ファルカオは昨季、マンチェスターUに移籍も出番が限られ、本領発揮とはいきませんでした。
「ファルカオは今まで所属したポルト、モナコ、アトレチコ(・マドリー)すべてで点を取りまくってきたけど、昨季はけがもあったし、そもそもファン・ハール監督のスタイルと噛み合わへんかった。例えばクロス一つにしても、ニアに速いボールを放り込んでファルカオが突っ込むパターンが作れず、最後まで結果が出なかった。ファルカオとしてはスペインに戻るなどの選択肢もあったはずやけど、もう1年プレミアで勝負しようというモチベーションが高かったんやろうね」
―そこで求めた新天地は……。
「モウリーニョのいるチェルシーでしたね。チェルシーにはジエゴ・コスタという絶対的エースがいて、彼がセスクのパスに合わせて裏を取るタイミングは最高やと思います。ただジエゴ・コスタはけががちやし、相手に研究されたシーズン後半戦は前半戦ほどゴールできへんかった。今季はドログバがチームを去って、ロイク・レミーもゴール前で勝負するには少し苦しいってなというところで、決めきる力を持つファルカオを呼び寄せるあたりは『さすがモウリーニョやな』と思いました。少しタイプの違うジエゴ・コスタとファルカオを使い分けることで、チェルシーの得点パターンはもっと増えるかもしれません」
■岡崎、吉田それぞれの課題とは
―日本人としてストライカーで気になるのは、レスターに移籍した岡崎慎司です。
「日本人FWがプレミアに行った、この事実だけでも素晴らしいことですよ。オカちゃんは背丈もそんなに高くないのに、14億円くらいの移籍金で加入したってのも価値がありますよね。ただ一つ気になるのは、オカちゃんの実力を買っていたピアソン監督が解任されたこと(※シーズン開幕前の6月30日に解任)。その後に来たラニエリ監督も、コメントを見る限りある程度評価はしてると思います。ただ、オカちゃんを欲しいと言ったのはピアソンやから、結果を残さないと使われなくなるって可能性がある。だからこそ、開幕5試合くらいで与えられるはずのチャンスを逃さず、ゴールという結果を残すことが絶対に必要やと思います」
―開幕前から逆境とも言える岡崎選手ですが、活路を見いだすとすればどこになりますか?
「オカちゃんが生かされる、点を取れるような形やタイミングを、彼自身がどんどん要求することですよね。それをシンプルに言えば、ファルカオと同じくサイドからの鋭いクロスに対してニアに飛び込む形と、中盤がボールを持ったら裏を狙ってロングパスを入れてもらう形。このどちらかでゴールが決められれば、『こうすればオカザキは点が取れるのか。今年の俺たちはこの形で点を取ってプレミアで戦っていくんや』と、レスターの選手やファンが認めるはず」
―自分のストロングポイントを積極的に見せていく、と。
「そのためには普段からの会話がとにかく大切ですよね。オカちゃんは清水、シュツットガルト、マインツと所属したクラブ、あと日本代表でも結果を残し続けてきた。だからこその期待感があります。レスターで二ケタ得点を取れれば、もう一つ上のクラブに行くチャンスも開けるやろうし」
―こちらはCBですが、もう一人の日本人選手、サウザンプトンの吉田麻也についてはどうですか?
「麻也もCBとして、プレミアの中で揉まれてるってこと自体がスゴいと思います。彼が名古屋でデビューしたころ、僕はセレッソの選手としてマッチアップして『コイツ、全然たいしたことないな』と思ったんやけど(笑)、経験を積んでどんどん良くなってきた。DFが成熟するのは30歳前後ですから、もっと成長して、シーズンをとおしてレギュラーを張ってほしいですね」
―吉田選手がもう一つ上のクラスの選手になるために、必要なことは何ですか?
「“1対1での横の揺さぶり”ですね。分かりやすい例が昨年のW杯、コロンビア戦でハメス(・ロドリゲス)にやられて失点したシーンです。後ろ向きに下がっていくときでも素早いステップワークができるようになれば、アグエロやダビド・シルバのような細かくボールを操るタイプにも対応できるはず。麻也はビルドアップ、ヘディングの強さ、リーダーシップを兼ね備えているから、あとは1対1だけやと思います」
―最後に播戸さんの視点で、「Jリーグファンがどうやってプレミアを見たら一層面白くなるか?」を教えていただけますか?
「プレミアは、プレーだけでなく全体的なスケールがJリーグの三回りくらい大きい。僕ら選手も『オレらもあれくらいならなアカン』といつも思ってますが、プレミアのようなプレーのクオリティーをJリーガーにも求めてほしいですね。あとはスタジアム全体の雰囲気を感じてほしいですね!
アウェイチームへのブーイング、攻撃を盛り上げるときの声援や苦しい時に鼓舞するチャントや拍手など、とにかくタイミングが素晴らしいんです。ファン、スタジアム、すべてが一体になって一つのゲームを作っていて、観客席の人たちも試合に参加してるんですよね。そんな理想がプレミアにはあるんです。そういった本場の雰囲気を感じていくことが、Jリーグにも絶対はね返ってくるはずですからね」
(BLOGOLA編集部)
2015/08/13 17:59