その時は、試合開始から65分が経過したときに訪れた。
ピッチ脇に立つ、ミランの背番号10。日本代表MF本田圭佑が、メンバー入り後初めての試合でいきなりセリエAデビューを飾ることとなった。
サッスオーロ戦の試合前日、ミラネッロで行われた監督会見でアッレグリ監督は本田の起用の可能性について、こう述べていた。
「本田は明日の試合でベンチには入るだろう。もちろんチャンスがあればプレーする機会を与えたいが、それは試合状況によるところが大きい。彼は約1カ月公式戦から離れており、現状はトップコンディションではないのは仕方がない」。
誰もがこのニュアンスからして、サッスオーロ戦で本田が出番を得たとしても、それは試合結果のすう勢がついた後など、大きな負担のかからない状況においてのみのことだろうと判断したものだった。
「来週の水曜日のコッパ・イタリア(15日・スペツィア戦)でよりプレーする機会は与えられるだろう」(アッレグリ監督)という言葉が付け加えられていたことからも、その予見に疑いはなかった。
ただサッスオーロ戦、本田が登場した場面は想定していたものとは180度違っていた。前半にロビーニョとバロテッリの役者2人が立て続けに得点を挙げ、幸先良く試合に入ったミランだったが、その後前半のみでベラルディにハットトリックを許して逆転されると、後半早々にもベラルディに4点目となる一撃を突き刺され、窮地に立たされていた。
先にモントリーボとパッツィーニの二人を同時に投入していたミランにとって、残された最後の3枚目のカードはこの苦境を救うための重要な切り札でもあった。そこに、この日初めてベンチ入りしたばかりの日本人MFが選ばれたのだった。
本田は、試合の流れを変えて見せた。ピッチに入ってすぐは味方からもあまりボールが渡ることがなく、オフ・ザ・ボールだけの動きが目立っていた。ただ68分、バロッテリがゴール前で本田にラストパス。これはシュートには持って行けなかったが、すぐ直後には今度は左SBのエマヌエルソンからのクロスにファーサイドでヘディングシュート。惜しくも味方に当たりゴールにはならなかったものの、このあたりから本田は試合の流れに入り、違いを生み出していった。
そして、83分の最大のハイライトが訪れる。左サイドのモントリーボからゴール前中央にいた本田に横パスが入る。すると本田はそれをダイレクトで左足を振り抜いた。ボールは鋭く弧を描き、ゴール右隅へ。しかし、無情にも右ポストに直撃してしまった。
その後もクロスやパスでチャンスを構築していったが、最後までミランは決め切れず。結局スコアは動かぬまま、試合は終わった。
試合後、屈辱的な敗戦に、ミランはアッレグリ監督のみがコメントを残し、選手は全員ノーコメントとなった。本田も例に漏れず、日本人記者の質問を受けることなくスタジアムを後にした。
チームにとっては手痛い敗戦だったのは間違いない。一方で本田はいつもの敗北時と同じくして、悔しそうにピッチを後にしたものの、個人のパフォーマンスとしてはデビュー戦では及第点以上のものだったと言える。この日はアウェイ用の白いユニフォームだったため、ミランの象徴であるロッソネロ(イタリア語で赤黒)を身にまとってのデビュー戦にはならなかった。
ただ公式戦は中2日ですぐにやって来る。15日のコッパ・イタリア。ホーム・サンシーロで迎えるこの一戦で、遂にロッソネロの本田が先発出場を果たす可能性も出てきた。少なくともこのサッスオーロ戦での出来を見れば、次戦の本田には大きな“何か”を期待せざるを得ない。そういう期待に値するようなデビュー戦だったと言えるだろう。(西川 結城)
(BLOGOLA編集部)
2014/01/13 11:10