遠くフットボールの母国で、正念場の一戦を迎える“関塚ジャパン”。そのメンバーにもadidas CUP日本クラブユース選手権(U-18)のOBは数多く名を連ねている。トップ下の東慶悟(大分U-18)、山口螢と扇原貴宏(ともにC大阪U-18)のダブルボランチ、右SBの酒井宏樹(柏U-18)、CBの吉田麻也(名古屋U-18)、そして守護神の権田修一(FC東京U-18)といった選手たちだ。
ちなみに、右MFの清武弘嗣(大分U-18)は高校時代に負傷が多く、この大会で活躍するという「縁」には恵まれなかった。しかし、チームとの絆は今も深い。大分U-18の首藤圭介監督によれば、清武は五輪前のわずかな時間を使って大分U-18の練習に顔を出そうとコンタクトしてきたという。結局、スケジュールが合わずに実現しなかった「練習参加」だったが、「本当にありがたい話だし、彼の存在は大分の子の励みになっているんです」と首藤監督は顔をほころばせていた。どうしても指導者の変わり目が縁の切れ目になりがちで、卒業生とクラブの関係性が希薄なことが多かったJクラブのユースチームだが、歴史を積み重ねる内に卒業生と「熱い関係(時として、ちょっと暑苦しいくらいの)」を築けるチームが増えていることは、地味ながら価値あることだ。
その日本クラブユース選手権(U-18)は7月31日から決勝トーナメントへ突入する。そのラウンド16に向けて注目選手を挙げていってもいいのだが、その前に少しお詫びをしないといけない。大会前に挙げた注目選手 http://blogola.jp/p/969 の一人、柏U-18のGK中村航輔についてだ。この中村、前日のCK練習で右腕を骨折してしまっていたのだ。全治まで約3カ月の重傷。当然ながら、今大会は欠場である。さすがに前日の負傷では把握のしようもなかったとはいえ、申し訳ないと言うほかない。ただ、中村が最も注目すべきGKである事実は揺るがないので、あえて彼の記事は削除しないつもりだ。
当然ながら、そんな彼の負傷は柏U-18にとって痛恨だった。「正直言って、かなり痛い。あれほどのGKですから。フィールドプレーヤーなら、まだやりくりもできるんですが……」と下平隆宏監督が肩を落としたように、大黒柱の欠場は一大事。しかも前日の負傷とあっては、代役の2年生GK伊藤俊祐を実戦で試すどころか、レギュラー組に混ぜての練習すらできていない状態である。
ただ、だからこそ問われるものがあり、高められる要素もある。下平監督は伊藤に対してはプレッシャーを軽減するため「1点は取られてもいいぞ」と声をかけつつ、攻撃陣には「絶対に2点は取ってこい」と発破をかける。さらに「GKが捕球したとき、CBやSBはいつもより意識を高くしてボールを受けに行ってGKを助けよう。いつも的確な声を出してくれる(中村)航輔がいないんなら、誰かが代わりにコーチングをしないといけないよな」といった声もかけたという。「いつも航輔に頼っていた」チームにとって、その欠場は大きな試練であったが、同時に自分たちの質を高めるチャンスでもあった。
柏に加えて、東京Vユース、C大阪U-18、名古屋U-18という「これが4強でも不思議はない」チームが同居した“死のE組”。柏U-18は勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果のすべてで東京Vユースと並んだ末に、抽選によって勝ち抜けとなった。絶対的守護神を欠きながら、決勝トーナメント進出という成果をつかみ取れたのは、代わってゴールを守った伊藤を筆頭に「いないからこそ」問われるものを出した結果と言えるかもしれない。
ところで、「負傷してしまった中村くんに対してはどんな言葉をかけたんですか?」と問うと、下平監督は「キレてやりました」とニヤリ。落ち込む本人を前に「お前はとんでもない迷惑をチームと仲間にかけたんだ。たまったもんじゃねえ。どうしてくれるんだよ」と言い放ったうえで、「この借りは絶対に返せよ。トップで正GKになって、日本代表の守護神になって返せよ」と熱い思いを伝えたそうだ。今大会で彼の勇姿を見ることはできないが、大きな借りが返される日を、楽しみに待ちたいと思う。
この写真は今年3月、マリノスタウンカップでの勇姿。見ていて楽しくなるGKはそう多くない。今度は日立台で見てみたい。
Photo:徳丸篤史
(EL GOLAZO 川端暁彦)
2012/07/29 21:16