高円宮杯JFA・U-18プリンスリーグ北信越プレーオフ決定戦が23日に石川県の七尾市能登島グラウンドで行われ、金沢U-18が日本文理高を1-0で下して来季からのプリンスリーグ北信越参入を決めた。
金沢にとっては終始苦しい展開が続いた。日本文理高は攻守の軸になる長身選手が存在感を発揮し、ロングスローを含めたセットプレーも練られていた。「競り負けるのはしょうがないが、セカンドボールの対応はチームとしてしっかりしようと気を付けていた」と金沢の主将・越元佑太は話したが、そこはアラートにできていた。ただ、立ち上がりこそうまくボールを動かしていたものの、徐々に相手の切り替えや囲み込みの速さ、球際の強さに負け、ボールを効果的に敵陣に運ぶことすら難しくなっていった。
後半に入ると日本文理高の攻勢は一層強まる。54分、FW長崎颯真のシュートをGK上田樹がなんとかしのいだシーンを皮切りに、61分、73分と立て続けに決定機を作られる。いつ失点を喫してもおかしくなかったが無失点で切り抜けると、風向きが変わり始めたのは延長に入ってからだった。
辻田真輝監督は「(ハーフタイムなどで)座って話を聞くと、選手たちもこちらの指示を落ち着いて聞いて納得できる」と振り返る。その言葉どおり延長戦は入り方がよかった。開始直後にFKから波本頼のヘディングシュートで相手ゴールを脅かすと、その直後の93分にもボールを回して相手ゴールに迫っていく。最後は駒沢直哉が左からカットインして右足を振り抜くと、この試合初めてネットが揺れた。「エリアの中央付近に大きなスペースがあって、そこに入っていったらシュートコースが見えた」という2年生FWは「あとは思い切り振った」と話したが、その言葉どおりの強烈なシュートだった。
これで一歩リードした金沢は終了間際に日本文理高の猛攻を受け、何度もひやりとするシーンを作られたがなんとかしのぎきって、ついにプリンスリーグ昇格をつかみとった。
金沢にとっては苦しみ抜いた末の昇格だった。この試合だけでなく、17日の富山第一高2ndとの1回戦も1-1で延長戦にもつれ込んでのPK勝ち。さらには、県リーグでは最終節で優勝を逃し、Jユースカップ1回戦では17本のシュートを放ちながら1度もネットを揺らすことができずに涙をのんだ。ただ、そういった数々の苦しい経験が今回の勝利につながったというのは越本。さらに主将は1年前の試合についても言及した。「去年のこの大会では先制したけど逆転され、もう1回追い付いたけれども、ゴール前での粘りが足りなくて3点目を失った。去年の悔しさをいかして今年は戦えた」。
金沢は去年だけでなく、その前も、さらに前の年も北信越昇格のチャンスを逃してきた。壁にはね返され続けてきたクラブの歴史を知っている辻田監督は試合後、しみじみとこう漏らした。「この試合は勝ちだけが必要。勝たなければ何も残らないからね」。試合後、3回宙に舞った指揮官は胴上げのあともしばらくピッチに大の字になって空を眺めていた。「(3回では少なかったので)もう一回やってくれるかなと思って(笑)」と冗談交じりに話したが、その姿はようやく重荷を下ろすことができた感慨と、新たに始まる挑戦への決意を込めているようにも感じられた。1年間の戦いが「何も残らない」ことになりかねないプレッシャーと戦い続けた男と緑のピッチ、そして澄み渡った秋の高い空と遠くの山々の紅葉。その瞬間、そこだけ時が止まっていた。
写真:村田亘
(金沢担当 村田亘)
2019/11/25 06:30