前回に続いて、J1昇格へのこぼれ話など書いておきたいと思います。
昇格とか優勝とか、何か大きなことを成し遂げるときには、不思議なまでにそういう雰囲気が、前もって生まれているような気がします。08年ナビスコ杯の前もそうでした。目に見えない何かが束ねられて、ぐんぐんと前が切り開けて行くような感じ。
チームを取り巻く人たちの間でも、大分を昇格させたいという思いが、今季は格別に強く感じられました。
ホームゲームのスカパー!中継で解説を担当している増田忠俊さん。プレーオフ決勝前の記者控室で、ポケットから小さく折り畳んだ紙を出して見せてくれました。それは1枚の護符。準決勝の京都戦の朝に訪れた金閣寺の拝観チケットなのだそうで、「きれいな虹が見えたから縁起がいいと思っていたら、大勝したでしょ。だからあれ以来、持ち歩いてるんだ」ということでした。
毎試合、熱いレポートを届けてくれるピッチリポーターの成尾佳代さんも、例年以上にコメント取材を頑張っていました。しっかりした仕事振りからは想像できないほどの天然キャラで、鳥栖でのU-19代表合宿に出掛ける松原健選手に向かって「何時の飛行機?」と尋ねるなど、爆笑を誘う場面も多々ありましたが、そんな成尾さんの醸し出す明るい空気が、チームを後押ししていたと思います。
「今日ゴールを決めたらxx日振りの得点」だとか、「○○選手は△△とは相性がいい」とか。そういった細かいデータを、「願」を掛けるかのように準備している実況の小笠原正典アナや高瀬建二朗ディレクターを始め、スカパー!中継に関わる全てのスタッフがJ1昇格への思いをこめて、ホームゲームの1試合ごとに、いつも以上の全力を尽くしていた。そういう空気感って、とても大事ですよね。
かく言う記者も、プレーオフ決勝前の打ち合わせの時に、その日の中継スタッフの方々から「大分のエルゴラ担当の服、めっちゃ青くね?」と、こっそり笑われていたという話を、後になって聞きました。
でも、「奇跡」と呼ばれるような結果をもたらすのって、そういう小さなことの積み重ねだと思うのです。みんなが少しずつ手出しした支援金が、3カ月で1億2000万円を超えたように。1人ひとりのサポーターがいろんな手段で国立競技場へ駆けつけ、スタンドを青く染めたように。
プレーオフ決勝で解説を担当した1人、野々村芳和さんも、昇格を決めて歓喜する大分の様子に声を潤ませていました。7月の第24節湘南戦の解説で大銀ドームを訪れた折にも、芝のコンディションが悪化していることについて、真剣に提言してくださったことがあります。ダブル解説だった名波浩さんや『マッチデーJリーグ』に出演の美濃部直彦さんもそうですが、大分の苦境や、町をあげての頑張りを、みんな見ていてくれたんだな、と感じることができた1日でした。
そして、こんな風に周囲のみんなが思いを寄せたのは、チームの頑張りがあったからこそ。うまく行かないときも腐ることなく、ひたすら実直に前節の課題を洗い直し、“自分たちのサッカー”を追求する。そんなひたむきな姿に引き込まれるように、青いうねりは生まれて行ったのでした。
本紙にも書きましたが、J1昇格はゴールではありません。債務超過も依然、残っています。これからも良くない時期は訪れるかもしれません。でも、好調なときには見えてこない、苦しさを乗り越えて行くチームの表情が、その先にある感動を連れてきます。見守り続ける。共に戦う。その気持ちが、チームと地域とのすてきな関係を築いて行くのではないかと思うのです。
(大分担当 ひぐらしひなつ)
2012/11/27 14:32