前節の金沢戦。町田が前半に記録した3ゴールは、ワンタッチプレーの連続をベースに絶妙なハーモニーを奏でた形だったため、ハイライト映像を見たサッカーファンにも相当なインパクトを残したはずだ。流れるようなコンビネーションプレーの連続でゴールを奪われた敵将の柳下正明監督は、「町田の選手たちはミスがほとんどなかった。ちょっとのズレもない。ほぼノーミス」と舌を巻いた。
昨季からチームを率いるランコ・ポポヴィッチ監督の下、地道に取り組んできた成果が実を結びつつある。そんなチーム状況を前に、指揮官は「野菜や果物と同じように、昨年しっかりと蒔いた種がいま実をつけて、青色から赤色に変わろうとしている段階」と話した。
もっとも、幾多のビューティフルゴールを決めたからといって、今節の山口戦でもそれを再現できるとは限らない。ポポヴィッチ監督も「チーム全体で崩す形でゴールを決めたから、また次の試合でも特別なことをやってやろうという気持ちでいるとうまくいかない」とチームの手綱を引き締める。
それでも、指揮官の哲学は「見ていて興奮するようなプレーは、人が流動的に動き、相手を崩してゴールを決めること」で揺るがない。そうした背景もあるため、ポポヴィッチ監督は「完成形に近づいている段階にはないが、ここまで来るのに選手たちの協力が大きかった」と話した上で、今後の方針をこう語った。
「町田はまだまだ小さなクラブだが、見ている人を惹きつける魅力的なサッカーができることを発信していきたい。『町田と言えば、こんなサッカーだよ』というものをしっかりと見せていきたいと思う」
クラブ誕生の起源的存在であるFC町田は、パスコースを作りながら相手を崩すスタイルで少年サッカー界に一石を投じ、縦に蹴るスタイルが主流だった時代に「横が縦を制する」という言葉で一目置かれていた。クラブのルーツを彷彿とさせた金沢戦での輝き。かつての町田の“アイデンティティー”とも言えるスタイルが、今後のJ2で猛威を振るうか。注目だ。
写真:郡司聡
(町田担当 郡司聡)
2021/09/10 11:45