昨年1 0月1日から早稲田大ア式蹴球部の部長を務めている石井昌幸教授は、部のO Bでもある。関塚隆氏、城福浩氏らの後輩として過ごした学生時代、早慶戦のピッチに立つことはかなわなかったという。「やっぱり特別な舞台ですし、みんなが出たいですよね。うらやましかったのを覚えています」。そう懐かしそうに振り返る石井部長に、節目の第70回大会を迎える伝統の一戦へ懸ける思いを聞いた。
――石井部長にとっての早慶戦とは?
「早慶戦というのは、言葉では言い表せないもので……特別な一戦ですね。勝敗を超えて、両校で競い合いながら高みを目指していかなければならないと思っています。学生やOBがこれだけ早慶戦を意識し、かつ世間からの注目も集める理由というのは、昔は早稲田と慶應で“勝ったほうが実質日本一”だったからだと思うんです。だから、早慶戦=日本一を決める試合、というところを今の学生も目指していかなければならないと思います。野球、レガッタ、ラグビーなど、他の種目もそうです。ですからこの試合は、単なるお祭りではないんです」
――“早慶戦=お祭り”と捉えている学生も多いと思います。
「定期戦は今年で70回目を迎えます。昨年末に行われたインカレ(全日本大学サッカー選手権)は第67回大会でした。そんなインカレよりも長い歴史があって、1万人以上の方が観に来てくれるような大会ですから、単なるお祭りで終わらせてしまってはいけません。早慶戦というのは、あらゆる意味で日本一でなければならないと思います。技術レベルも、観客の盛り上がりも、選手の態度もそうです。大学スポーツのあるべき姿が、早慶戦に行けば見ることができる――。大学サッカーの模範になるイベントを、みんなで作って表現してほしいと思っています」
――両校のライバル意識は、本当に強いですよね。
「『仮に大差をつけても、もっと取らないとダメだ。それが慶應への礼儀だ』と。私はそう教わってきました。次の年に勝てるかどうか分からないから、勝てるときには徹底的にやっつける。完膚なきまでたたきのめすのが礼儀なのだと。それは相手も同じだと思います。慶應は早稲田が相手だと、異様に強くなりますからね」
――昨季の定期戦は、等々力陸上競技場に1,7000人以上の観客を集めました。
「学生やOBたちが手分けしてがんばって、等々力陸上競技場の周りをあいさつして回ったり、手作りで運営しているような試合です。みんなの努力のおかげで、観客動員も増加してきました。運営に限らず、学生たち自らが新しい文化を作り上げるという風潮があります。例えば、以前までサッカーの応援は野球のようなスタイルでした。早稲田もそうだったのですが、ウルトラスワセダというサークルが、ある時期からサッカースタイルの応援を始めたんです。今は応援部やベンチ外の部員もウルトラスと一緒に応援をしています。そのようなことを考えるのも、早稲田らしいのかなと思っています」
――早稲田が7連覇中の定期戦ですが、今季の展望は?
「厳しい戦いになるかなとは思っています。早稲田は(関東大学リーグ1部第8節終了時点で)2勝だけ。一方、慶應は2部リーグのトップですから。ただ、今季は開幕6試合で1分5敗だったんですが、失点の数は優勝した昨季の同じ時期とあまり変わらないんです(昨季は8失点、今季は10失点)。大きく違うのは得点数。昨季は勝負強さがあったのですが、今季はなかなかゴールが決まらないんです。チャンスは作っているのですが……。難しいですが、その部分が変われば、いくらでも変わると思います。下級生にも良い選手がたくさんいます。外池(大亮)監督はいろいろな選手を使うので、そこがうまく機能するといいですよね」
――最後に、両校の選手たちへエールをお願いします。
「私は現役時代、早慶戦に出場することはできませんでした。やっぱり、うらやましかったです。重みが違う、特別な試合です。ほとんどの選手にとって、あの舞台でプレーできるというのはなかなか味わえない経験だと思います。生涯の宝になると思うので、楽しんでほしいです」
石井 昌幸
(いしい・まさゆき)
早稲田大学スポーツ科学学術院教授。専門はスポーツ史、国際スポーツ文化論。ア式蹴球部OBが部長を務めるのは、ベルリン五輪日本代表の堀江忠男氏以来となる
聞き手:内藤 悠史/写真:宇高 尚弘
(BLOGOLA編集部)
2019/07/10 22:56