著者:宇都宮 徹壱(うつのみや・てついち)
発行:7月5日/出版社:東邦出版/価格:1,500円(本体価格)/ページ:304P
「おいでよJ2(J3にも)!」地域に根差した18の物語
おらが町のクラブ――。この表現は、J1よりもJ2やJ3のクラブのほうがしっくりくるのではないだろうか。J1のような華やかさはなく、毎年のように選手がゴッソリと入れ替わるクラブも多い。しかしそのぶん、選手、チームだけでなく、クラブそのものを応援する空気はJ1よりも濃度が上。それは、日々の取材の中でもよく感じることだ。
本書はスポーツ総合サイト『スポーツナビ』で連載中の『J2・J3漫遊記』からJクラブの物語17篇が抜粋され、さらに横浜FCの章が書き下ろされている。著者は地域リーグに至るまで、フットボールの現場をつぶさに取材している宇都宮徹壱氏。クラブ一つずつが取り上げられた各章は、ある1試合の描写から始まり、選手や監督、クラブ関係者の声、あるいはサポーターなど外部の声をとおして、クラブの現在地を切り取っていく。
たとえば岡山の章は、クラブが初めてJ1昇格争いを演じた12年のストーリー。当時まだ建設中だった専用練習場が、サポーターの働きかけで実現に向かったエピソードにクラブ愛が満ちている。きっかけは、元ブルガリア代表DFイリアン・ストヤノフが子供用プールで温冷交代浴をする姿が、地元TVで放映されたこと。それを見たサポーターたちが「この状況が続けば、いまいる選手たちもチームから離れてしまう」と危機感を募らせ、3カ月で28万人分もの署名を集めることになる。まさに市民がクラブを育てた一例だ。
福島の章では、「ユナイテッド、なくなっちゃうの?」と訴える子供の涙で鈴木勇人社長が東日本大震災からの再生を決断したエピソードや、原発事故による農産物の風評被害払しょくに向けたクラブの取り組みなどにも触れられている。
各章末には付記があり、その後の歩みと比較できるのも興味深い。取材後も紆余曲折を経ているクラブが大半で、J2、J3クラブを運営する大変さをあらためて認識させられる。だが、J1より厳しく、恵まれていない環境だからこそ、クラブには一人でも多くのサポーターの力が必要であり、サポーターにとっては応援し甲斐が出てくる。
J2担当記者としても、本書の惹句に倣って声を大にしたい。「おいでよJ2(J3にも)!」。
(京都担当 川瀬太補)
2017/09/10 12:00