著者:アンドレス イニエスタ(ANDRES・INIESTA)
発行:2月1日/出版社:東邦出版/価格:1,600円(本体価格)/ページ:368P
孤独、繊細、寡黙、謙虚――。“アンドレス”の本当の姿
そこはバルセロナのあるカタルーニャ州ではなかった。一心不乱にボールを蹴り続けたラ・マンチャこそ、少年の大切な原風景だった。
本書はバルセロナの顔として8度のリーグ優勝と4度の欧州CL優勝を果たし、スペイン代表として2度のユーロと10年のW杯を制した“神童”の自伝である。
アンドレス・イニエスタ。華麗なテクニックと恐ろしいほどのキープ力、針の穴を通すかのようなスルーパス。誰もが憧れるプレーをいとも簡単にやってのけてしまう彼の才能を賞賛する証言は枚挙にいとまがない。親愛なる家族や友人、監督、コーチ、スカウト、そして錚々たるチームメートたち――。多岐にわたる人物から語られる多角的なそれは、あまりに圧倒的だ。
しかしながら、そうした証言を通じて明かされるのは、華々しいキャリアや技術論だけではない。12歳で親元を離れてラ・マシア(バルセロナの下部組織)にやってきた少年が、いかにつらく孤独な日々と戦ってきたか。多くを語りたがらない寡黙で謙虚な彼が、日々何を考え、目の前の壁をどう乗り越えてきたのか。そこから浮かび上がるのは“アンドレス”という一人の人格者だ。要所の試合についての述懐もあり、彼がどんな気持ちで試合に臨んでいたのかも伺い知ることができる。
中でも、元バルセロナ監督のジョゼップ・グアルディオラ(現・マンチェスターC監督)とのやりとりには鳥肌が立った。監督就任からなかなか勝つことができず、一人オフィスにこもっていたペップ(グアルディオラ)の元に現われたアンドレス。繊細で、言葉数の少ない彼がペップにかけた言葉――。その内には思いの強さと優しさが秘められていた。まるでピッチ上のすべてが見えているかのような、繊細で優美なあのプレーと同じように、いつだって彼は周囲の機微を感じ取っている。
完成までに数年の歳月をかけたという自身初の自伝。信頼を置く二人のジャーナリストと“三人四脚”で完成させた本書は評伝の色も強いが、自伝であり評伝でもあるからこそ、あらゆる人を魅了し、慕われてきた彼の本当の姿と魅力が、ここにはある。
(BLOGOLA編集部)
2017/05/21 12:00