著者:飯尾 篤史(いいお・あつし)
発行:4月15日/出版社:講談社/価格:1,500円(本体価格)/ページ:324P
これが中村憲剛の生き様。“挑戦と挫折”の物語
14年5月10日、午後2時。ブラジルW杯に挑む日本代表のメンバーリストに自分の名前がないことを、中村憲剛は試合地へ移動するバスの中で知った。同乗のクラブスタッフが車内を撮影していて、のちにサッカー番組で目にしたが、大久保嘉人のサプライズ選出に沸き上がる車内の臨場感あふれる映像に一瞬だけ映った中村の複雑な表情は、いまでも忘れられない。
『残心』という題名が付けられたこの一冊は、中村の“挑戦”の物語ではなく、“挑戦と挫折”の物語である。
ベスト16に進出しながらPK戦で涙を呑んだ10年南アフリカW杯での心残りを描いた「2章・激闘」。「3章・渇望」は叶わなかった海外移籍、「4章・波瀾」はアジアカップのメンバーから落選し、クラブでも先発から外れることがあった11年の苦悩がテーマである。もちろん、挫折ばかりではない。「5章・新風」で風間八宏と理想のサッカーに出会い、13年には「史上最高の中村憲剛」が生まれた。それでもブラジルには届かなかった。だが、中村は燃え尽きていない。終章は「熱源」である。
今年6月にはステージ優勝を逃すという挫折をまたも味わったが、挫折のたびに「史上最高の中村憲剛」は更新されていく。その到達点を見届けない手はない。
相手の守備の穴を瞬時に見極め、長短自在・正確無比なパスで鮮やかに射抜くそのプレーは、後世に語り継がれるべきものだ。ただ、著者は稀代のフットボーラーとしてではなく、もがき続け、戦い続ける“雑草”としての中村に着目している。「これが中村憲剛の人生だ」と。中村本人は、(この本の中に何度も登場する)子どもたちに、自身の生き様を書き残したかったのかもしれない。
なお、中村家の長男は広島の佐藤寿人に憧れているのだという。中村も「点を取る奴が一番偉い」と教え込んでいるとのことだが、もう少し大きくなったら、父親の本当の偉大さを知るだろう。
(BLOGOLA編集部)
2016/08/05 12:10