加入後6試合で3ゴール4アシスト、名古屋の攻撃に化学変化をもたらした前田直輝が、子どものころの思い出を語ってくれた。
いまでは高い技術と鋭いドリブル突破を武器にする前田。しかし小学生のころは50m走が8秒台と、決して速くはなかったそうだ。「このままではプロになんてなれない」。思い悩む息子のために前田の父は、必死に本を読んで速く走るためのトレーニング法を調べてくれた。そしてサッカーの練習とは別に、おもりを足につけたり、チューブを使って腿上げをしたりなど、足が速くなるトレーニングを父親とともに行う。
その親子のトレーニングで、徐々に自分の脚に手ごたえを感じるようになっていた前田は、本格的にラントレを練習し始めて1年ほどで人並みに走れるようになったという。その後も高校生になるぐらいまで父親とボールを蹴っていた前田は、「昔のトレーニングもしようか」とそのラントレを続けていたそうだ。
いまではそんなエピソードも嘘のような前田の走り。確かによく見るとスバ抜けて速いわけではないが、1歩目が速く的確な位置取りでスピードを感じさせる。それは徹底的に鍛えられたという前所属の松本での経験も大きいのかもしれない。
一緒に努力してくれた父親に対して前田は「もちろん感謝していますよ。親父がいなかったらいまの俺はないので」と最大限の謝辞を送る。そしてその恩に応えるとすれば、周辺からも聞こえ始めたA代表というステージだ。
「日本代表ですか。いやまだまだですよ。たかが6試合、結果が出ただけで代表なんて言えないです」と、前田は謙虚だが「もちろん、いつかはそうなれるように毎日努力はしています。父親への恩返しのためにも代表が狙えるようになればいい」。そう言って照れながらクラブハウスを後にした。
脚の速くなかった少年が必死の努力をして日本代表のピッチで駆け回る。たくさんの子どもたちに夢を与えるシンデレラストーリーの結実は果たして?
(名古屋担当 斎藤孝一)
2018/08/25 12:04