著者:ジョン クロス(John・Cross)
発行:10月10日/出版社:東洋館出版社/価格:1,800円(本体価格)/ページ:448P
名将にして革命家。アーセン・ヴェンゲル20年の足跡
20年前、当時のイングランドでは無名だった一人の男が、アーセナルの監督に就任し、“美しいサッカーで勝つ”という信念の元、プレミアリーグで革命を起こした。アーセン・ヴェンゲルである。
95年から96年途中まではJリーグの名古屋でも指揮を執っており、日本のサッカーファンにも広く認知されている人物だろう。
以降、ヴェンゲルは今日に至るまでアーセナルを指揮し、強豪ひしめく世界一激しいリーグで輝かしい成績を収めてきた。順位は常に4位以上を維持し、欧州CLの出場権を18年連続で獲得。リーグ戦優勝3回、カップ戦優勝6回、97-98シーズン、01-02シーズンには二冠を達成し、03-04シーズンには前人未到のシーズン無敗優勝を成し遂げた。
本書はそのヴェンゲルがアーセナルで歩んできた20年の歴史を凝縮した、とびきり密度の濃い一冊だ。就任当時、アルコール問題やスキャンダルで停滞していたチームをいかにして立て直し、練習法、食事、戦術の改革を行ったのか。いかにしてインビンシブルズ(無敵のチーム)と呼ばれた伝説のチームを作り上げたのかといった足跡が、ヴェンゲル本人、当時の関係者たちの証言を中心に圧倒的な情報量で綴られていく。特筆すべきはそのコメント量の多さ。チームに革命が起こる現場を目の当たりにしてきた当事者の生の言葉が、次から次へと湧き出てくる。それら言葉の渦が、イングランドでは無名だった監督が世界的名将に至るまでの道程に臨場感を与え、まるでヴェンゲルの隣を長年一緒に歩いてきたかのような感覚を読者に与える。地元ロンドンでアーセナルを追い続けてきた著者だからこそなし得た経験の妙だろう。
また、それらの言葉はヴェンゲルの功績を追うだけでなく、ときとして名将のチャーミングな一面も生き生きと描き出す。練習場で網の中からボールを出そうとしていたヴェンゲルが網に絡まって動けなくなり、スタッフに助け出されるといったエピソード群には、思わず頬が緩んでしまう。
(BLOGOLA編集部)
2016/11/06 12:00